七章

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イライザはオスカーの手を引いて離れの小さな庭園に連れて行く。マリーゴールドが控えめに咲いている可愛らしい庭だ。義姉のメリッサからあまり人が来ない場所だと教えてもらったのだ。オスカーは背後から揶揄(からか)うような口調で言う。 「こんな人気のない所に連れて来て……俺をどうしたいんだ?」 彼の素の口調を聞いたイライザはハッと我に返った。無意識の行動だったらしい。にやけた彼の表情が(しゃく)に触り、彼女は澄ました顔で言う。 「別に、貴方が窮屈そうだったから人目の付かない所に連れて来てあげたのよ」 「……そういう事にしておいてやろうか」 いつも上から目線だ。しかし悔しいことに、前程腹が立たなくなった。 「その方が、貴方らしいわ」 イライザもいつもの調子で皮肉な笑みを浮かべると、オスカーがぐいっとイライザの顔を持ち上げる。 「……目の腫れは引いたな」 あの日以降、彼女が涙を流す事はなくなった。 「一日で充分よ、あの人の為に流す涙なんて」 イライザの顔は明るい。オスカーは彼女の絹糸のような髪を少し雑に撫でる。
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