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——油断しているようね。
イライザは少し挑戦的な眼をして背伸びをする。そして彼のほおに音を立てて口付けた。
「……」
驚いた顔のオスカーに、彼女は花が開いたような満面の微笑みを見せる。
「ねぇオスカー、私はこれからも貴方の妻として生きていくわ。どうやら私も……存外に貴方を嫌いではないようだから」
思ったより早く立ち直れたのは、オスカーのあの言葉のせいだ。いつもの自信はどこに行ったのか、切望するように絞り出す言葉が、それこそ存外に彼女の心に刺さったのだ。
珍しくしばらく呆けていたオスカーが、やったなと言わんばかりに唇にキスを返す。小鳥が啄むような、軽いキスだ。イライザが同じく驚いた顔を返したせいなのか、少しほおを染めて嬉しそうにしている。
「……近い将来、『愛してる』と言わせてやるから、覚悟しておけ」
自分もまだ言ってない癖に。イライザは、一瞬だけ夫の無邪気な表情を「愛しい」と思った。
「……城に戻りましょうか」
彼女は夫の腕を取って城に向かって歩く。彼に紅潮した顔を見られないように、俯いて長い髪を顔に垂らした。
——簡単には言ってやらないわよ。
どうやら二人にとって、存外にこの結婚は悪くなかったらしい。
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