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この人はたまに自分の親だと言うのに自分より幼く見える事がある。
「やめてよね、そう言う冗談。聞き続けてたら寿命が縮んで、父さんより速く死んじゃうよ」
「ハッハッハッ、寿命が縮む思いなら俺だって散々してるぞ」
このての話になると父の話は長い。大蛇に巻きつかれただのカバに追いかけ回されただの、話題に事欠かない。
というか、この親は親子で短命自慢合戦でもするつもりなのだろうか?
「せんせーーい!」
そうこう話していると、正面玄関から声を張りながらこちらに手を振って近づいてくる人影が見えた。
「おぉ、こっちだこっち!」
父もその姿を確認すると、手を振ってそれに答える。
「先生、来ていただけて本当に感謝の言葉もありません」
その人は父とは違ってピッシリと黒のスーツを着こなした端正な顔立ちの二十歳前後の男性で、来てすぐに父だけでなく僕にまでキッチリと頭を下げた。
その後、手を差し出して父に握手を求める。
「ハッハッハッ、大切な弟子の授賞式だ。地球の裏側からだって駆けつけるさ」
そう言いながら父は差し出された手を握り潰しそうな勢いで握り返し、またも大王のように笑う。
そうこのスーツの男性こそ父が弟子と呼ぶ大学の生徒。
父は大学で生物学、主に昆虫を研究している。のだが。
スーツの彼は実は厳密には、父の研究室の生徒と言う訳ではない。
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