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「そんじゃぁ、俺はもういくからな」
そう言うと父は僕に背を向けて正面玄関へと歩いていく、お弟子さんの方も僕の方に軽く会釈すると父の背を追って歩いて行く。
「ん、そうそう。おい、健太郎!」
父が玄関の自動ドアの前まで来た時、何かを思い出したようにこっちを振り向いた。
「俺の土産、俺が帰るまで絶対に開けんなよ!!」
ガキか!
「わかってるよ、父さん」
僕は手に持った小ぶりなアタッシュケースを掲げてそれに答える。
「絶対だかんな、絶対だかんなぁ!!」とか本当に子供みたいな事を言いながら、お弟子さんと共に自動ドアの向こうへと消えて行った。
「はぁっ」
あの子供っぽさはたまに辟易する事もあるが、あんなのでも尊敬できる人で大切な父親だ。
久方ぶりに見た父の背中の見送りを終えると、自宅へ帰る為に正面玄関の自動ドアへと向かった。
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「先生、今日は僕の授賞式の為にありがとうございます」
式場へと向かう車の中、弟子と言われた青年は恭しく頭を下げた。
「かまやしねぇよ。大切な弟子の祝い事だ、どっからだって飛んで来てやるさ」
父は快活に笑ってそれに答える。
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