21人が本棚に入れています
本棚に追加
落ちる!
なんでこんな事になった?
川の深さは?
頭の中でいくつもの考えが刹那の内に浮かんでは消えていく、考えがまったく纏まらない。
だが、ケースにしがみついたまま一緒に落ちてくる彼女の姿を見た時。思考が消えた。
次の瞬間、ケースごと彼女を引き寄せてその勢いのまま彼女の後頭部に手を回す。
そして彼女の顔を自身の胸板に押しつけて、無意識の内に彼女を庇うように身を滑り込ませていた。
その時 彼女の帽子が落ちて長い黒髪が中空に踊った。
そして訪れる水の衝撃。
(あぁ、クソ。やっぱり無視しとけばよ…か……た)
そこで僕の意識は暗闇へと落ちていった。
───────────────────────
地面を覆い尽くすかのように枝を広げた木々がいくつも立ち並ぶ、光も届かない鬱蒼とした樹海の中。
しかもバケツをひっくり返したような大雨のせいで、自身の手すらもろくに見えない暗闇が広がっていた。
人はおろか動物さえいない雨音と闇だけが支配するその場所に、水を弾く黒い外套を着てランタンを下げて歩く人影があった。
その人影は道を急ぐと言う風でもなくランタンの光を右へ左へと振って。
道に迷ったと言う見方もできるが、それよりもその行動はまるで何かを探し回っているかのようだ。
そしてランタンの光がある一点を照らし出して止まった時。
最初のコメントを投稿しよう!