異世界

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初夏。 蒸し暑くなり、セミの声が聞こえてくる頃の日曜日。 僕、井ノ川 健太郎(いのかわ けんたろう)は冷房の効いたタクシーの中で、流れているラジオの音楽を聞き流しながら車窓(しゃそう)の景色を眺めていた。 だが、何処にでもある一般家庭レベルの家に住む僕に、わざわざタクシーで遊びに出掛けるなんて金銭的余裕はもちろんない。 だからもちろん、今回のタクシー移動にはちゃんとした理由とパトロンがいる。 父だ。 大学教授をしていて論文の為に日夜(にちや) 海外を飛び回っている父が、突然 日本に帰るからと連絡が来た。 内容は日本には帰るが帰国してすぐ行かなければならない所があるとかで、空港まで荷物を取りに来て欲しい、との事だ。 正直 めんどくさかったが、荷物の中身が僕と父の共通の趣味の物品であった為、その誘惑に負けて断れなかったという訳だ。 そうして窓から外を眺めている内にタクシーは空港に到着した。 代金を支払い タクシーが走り去って行くのを見送ると、そのまま空港の正面玄関へと進む。 正面玄関からロビーに入るとすぐに人が右へ左へとやたら(あわ)ただしく動き回る光景に出くわす。 ちょうど父の乗った飛行機が到着した時間帯なのである程度の人混みは覚悟していたが、実際に出くわすとなんとも言い難い。
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