21人が本棚に入れています
本棚に追加
/181ページ
この目眩がするような人混みからたった1人を探しださなければならないかと思うと、急激に心が萎れてくる。
その時だった。
「おーーい」
野太い男の声が聞こえてそちらに振り向くと、片手を上げてこちらに近づいてくる人影が見えた。
「父さん!」
その人影の正体に気がつくと、こっちも手を振って答えた。
「おぉ、健太郎。久しぶりだな、少し見ない間にまた背が伸びたんじゃないか?」
近づいてきた人影の正体、父はそう言いながら太い腕で頭を潰しそうな勢いでグシャグシャとなで回す。
「父さんも相変わらずで!」
潰しにかかっているとしか思えない父の腕をどうにか振り払って、相も変わらない父の顔を見返す。
父は日本人の平均的な身長よりやや高いくらいの身長しかないが、鍛えられた逞しい体のせいで数字の印象よりも大きく見える。
それに加えて無精髭と手入れもろくにしていないバサついた髪のお陰で、正直な話 戦場帰りの傭兵にしかみえない。
しかもそんな男がスーツなんて着ているものだから、違和感しかない。
見てみてくれ、あの胸筋を。スーツの前がパツンパツンで今にもボタンが飛びそうだ。
最初のコメントを投稿しよう!