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「僕は確かに死神だけど、死神にも役割が割り振られててね。」
吉良さんはお茶を運びながら、まだ聞いてもないのに話し出した。お茶は昨日と同じ香りのものだ。
「君達が思っているような死神ももちろんいるけど、僕は事後処理担当なんだよ。
人の命、まぁ魂っていうのかな、回収して来たら別の所に引き渡して終わりなんだけどね、この引き渡しが最近はうまく行かないんだ。
例えば別れた恋人への腹いせに自殺した人間が、自分が死んだ後に元恋人はどうしているかどうしても知りたいって駄々をこねて、引き渡す時に担当の死神と同化しちゃってね、元に戻すのが大変だった事があるんだよ。」
吉良さんはさらに続けた。
「僕の仕事はここへ来た人達を連れて行く事じゃなくてね、人間の心理を理解するために研修に来てるようなものなんだよ。でもそれだけじゃない、一部の患者さんにはカウンセリングをする代わりに僕の仕事を手伝ってもらう事になってる。でもこれは本当にごく一部で、滅多に要件を満たす人間いないんだけどね。」
吉良さんはそこまで話すと、お茶に手を伸ばした。
おかしくないだろうか。人間をあの世?に迎えに来る死神がいて、一方では人間を助ける死神がいるなんて。
何だか真逆の事をしているようか…。
「勘違いしないでほしいんだ、死神は死期が近付いた人間を迎えに行くのが仕事で、殺す事が仕事ってわけじゃないんだよ。
ここで受け入れる患者さんも、死に直結する患者さんは受け入れない。あくまでも現状に苦しんでる人の心の取っ掛かりをなんとかするだけで、直接の命のやりとりはしないんだよ。
それに極端に自殺願望が強かったら、このカウンセリングルームだけじゃなく、他でも受け入れないと思うよ。真っ先に病院で入院コースだよ。
それから、カウンセリングルームは自分を変えたいって願う人じゃないと、あんまり効果が無いからね。病院とカウンセリングルームの大きな違いは、薬が出るか出ないかでもあるしね。」
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