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「とまぁ、こんな感じなんだけど。あれ?怖がらせちゃったかな?」
さっきの表情はなんだったのやら、急に飄々と話し出した吉良さんに呆気にとられてしまった。
けれどそれより、まだ気になる事があったから。
「要件って、なんですか。」
「要件は企業秘密☆」
吉良さんは初めて会った時のあのずる賢そうな笑顔で答えた。こっちの方が地ということでいいのだろうか。
「取り敢えず、死後の人間の我が儘が多いせいで吉良さんのお仕事がはかどらなくて、人間の心理を勉強しに来たのは何となくわかりました。」
私はできるだけ平静を装って続けた。
「でもなんでカウンセラーなんですか?精神科医みたいなお医者さんでも良かったんじゃないですか。」
すると吉良さんは間髪入れず、
「僕は医者は嫌いだよ。」
と答えた。そして続けて、
「あぁ、でも人間は好きだよ。」
と答えた。
「人間は動物と違って本能以外でも動くでしょ?感情的にっていうか、非合理的っていうかさ。うーんと、人間味ってやつなのかなぁ。それに一人一人が深層心理に抱えてるものが全く違うんだ。カウンセラーは人間の深層心理に語り掛けるからね。どれだけ天才が集まっても解明できないのが人間の心理なんだよ、面白いし興味が湧いて止まないよ。」
人間に転職したいよ、と彼はおちゃらけたように言った。
「医者はね、よく喧嘩になるから嫌いなんだ。」
何か思い出したのか、吉良さんはムスッとしながらそう言った。
あ、拗ねたと思った時、
「さっきから携帯なってるけど大丈夫?」
吉良さんが私のバッグを指さして言った。
自分では全然気が付かなかった、なっていただろうか。吉良さんが主に喋っていたのに良く気が付いたなぁ、と耳の良さに少し感心した。
「ちょっと失礼します。」
私はそう断ってスマホを手に取った。
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