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そして私を許さなかったのは、意外にもゲームの中で1番仲の良かった子だった。
年齢も性別も知らないが、とにかく気が合って毎日のように一緒に過ごした。何年も一緒だった。
それなのに、一ヶ月程姿をくらました私を「裏切り者」と罵る様になったのだ。
その子は1度怒り出すと、誰かが仲裁に入らなければ解決が難しい程の激情型ではあった。
けれど、ここまでLINEでなじってくる事は今まで無かった。
事情を説明しても納得せず、ただひたすらに攻撃を続け、ゲーム内では私がアイテムを持って逃げたと言っていたらしい。
ここ1週間程LINEでの攻撃は続き、私はその度に謝るという状態が続いた。
そして私は流石に疲れ果て、途方に暮れていた所だった。
「どうしたの?」
無表情でスマホを見る私に、吉良さんは声をかけてきた。
「いえ…。」
最初こそ黙っていようかと思ったものの、弱気になったのか、私はぽつりぽつりと話し出した。
すると、
「その子のLINE、ブロックして。」
吉良さんは躊躇なくそう言い切った。
「え?」
私は正直驚いた。
このタイミングで連絡を絶つなんて事したら、この子はゲーム内で何を言いふらすかわからない。
ただでさえ逃げたと大騒ぎしているらしいのに。
「その子との関係は切ってしまっていいよ。話をわかってくれる人が一人いれば十分だよ。」
「でもLINEブロックしてもメールもあるし、他の人に迷惑が及びそうなんです。この子は私が皆から袋叩きにされないのがおもしろくないみたいで…。」
「メールも削除。LINEもブロックじゃなくて削除でもいいよ。他の人には家庭の事情で接続できないって伝えてもらうだけでいい。後は他の人を信じる、まぁ言ってしまえば丸投げでいい。」
なんて無茶なことを言うんだろう。
そもそもはオンラインゲーム内で借りた物を返せないからこうなっているのに。
それじゃまるで本当に逃げたみたいじゃ…。
私がぽかーんとしていると、
「ごめんね、今日は時間がきちゃった。次あった時にもう少し話そう。今日はここまでね。」
吉良さんはソファーから立ち上がって、部屋のドアを開けた。
私は納得いかなかったが上着を手に取った、何だかんだで長居をしてしまった気もしたし。
吉良さんは私を玄関まで送ると、最後にこう言った。
「凛さん、君は自分に何が起きているかを知ると同時に、自分の身を守るすべを覚えなくてはならないね。」
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