第4回心の処方箋 -初診-①

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2年生の時、父の単身赴任が決まった。 部活動に執着する父の姿を見ていた私と母は、父の単身赴任を歓迎した。 単身赴任先は福井県で、私達の済む静岡県からでは交通の便も悪く、往復の交通費を考えれば毎週家に帰ってくる事など不可能だと思ったからだ。 しかし期待を裏切って、父は毎週静岡に帰ってきた。 そして父の行動はさらにエスカレートしていった。 ソフトボールの経験者でもないのにチームメイトや後輩に技術指導を始めたり、私が体調が悪いと訴えても、何が何でも部活に出るように叱責された。 ある大会の日、試合中にサードを守備していた私は相手チームのランナーと接触し、転倒してしまった。 運の悪い事に地面に頭を打ち付け、さらに不運な事にランナーの足に頭を巻き込まれ、そのまま数メートル引きずられてしまったのだ。 不思議な事に意識はハッキリしていて、 「これで今日は部活が休める…」 と思ったのを覚えている。 意識はあったが目がしばらく見えず、自分では気が付かなかったが、ものすごい鼻血の量だったらしい。 試合は一時中断され、チームメイトや後輩達が慌てた様子で駆け寄ってきた。 「先輩大丈夫ですか…!」 と後輩が私の顔を拭ってくれたが、如何せん自分の様子が見えないので、「大丈夫大丈夫。」と普通に答えたが、出血が中々止まらないため守備を交代する事になった。 私は母やチームメイトのお母さんに連れられて、大会の主催者が用意したテントで休む事になったが、目が見えるようになっても鼻血は中々止まらなかった。  「鼻の奥切れちゃったのかしらね…」 そんな心配をされていると、そこへ父がやって来て、私にこう言った。 「おい凛、もうすぐお前の打席だぞ。鼻血くらいでいつまでも寝てるんじゃない。」 それだけ言って、父は父兄の席に戻って行った。 -怪我をした自分の娘にたったそれだけ?私の心配は?試合の方が、ソフトボールの方が、それとも自分の立場がそんなに大事…? 私の顔はすぐに涙でぐちゃぐちゃになった。 「お母さん、お父さんは私とソフトボール、どっちが大事なのかな。」 今度は涙で前が見えなくなった。チームメイトのお母さんが気まずそうにこちらを見ていたのはよく分かった。けれど、肝心の母は何も答えてくれなかった。 そして自分の打順が回って来た時、私はバッターボックスに立っていた。 試合の最後まで、私はサードのポジションに立っていた。
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