第4回心の処方箋 -初診-①

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あぁそういえば。 どうでもいい所で、母はやらかしてくれたっけ。 「話全然変わっちゃうんですけど…。」 この話は私の中ではいわゆる「黒歴史」なのだが。 中学の時、私には好きな人がいた。しかも本人にも周りにもバレバレな恋だった。もちろん親にもバレバレだった。 卒業式の日、今時は流行っていないかもしれないが、私は勇気を出して彼の第2ボタンを貰いに行く事を決意をした。 いざゆかんとばかりに廊下に出た時、ちょうど彼が通りかかった。彼はちらりとこちらを1度見たが、何だか不機嫌そうな顔つきで私の前を通り過ぎて行ってしまった。 -なかった。今第2ボタンがなかった! 今では視力が落ちてしまったものの、当時視力が2.0以上あった私が見間違えるわけがない。 無駄に鍛えられた動体視力もあるのだから間違いない。 誰かに先を超されてしまったのだろうか、そんな風に思っていた時、 「凛~。」 と、彼が歩いて来た方からソフトボール部で一緒だった元部長がやって来た。(余談だが、私は副部長だった。) 「はい、コレ。」 手に握った何かを渡そうとするので、私は手のひらを差し出した。 すると、手のひらにコロンとボタンが転がった。 「あんたの性格じゃ貰いに行けないと思って、代わりに貰っておいてやったよ。」 んん?これってもしかして…。 「他の人に取られなくてよかったね、感謝してよ?じゃ~ね!」 彼女は上機嫌で去って行ったが、これはつまり彼の第2ボタンということで…。 今貰いに行こうと思ってたんだよ…。 今貰いに行こうと思ってたんだよ…! クラスメートとの別れも終わり、母と一緒に靴箱に向かった。 なんだかドッと疲れてしまった、早く帰ろう…そんな事を思いながら上履きを持ち帰る準備をしていると、そこに彼が現れた。 けれど、こっちをチラチラ見ているだけで話しかけて来るわけでもなかった。 私から話しかけるのも…と躊躇って、そのまま帰ろうとすると、母に引き止められた。 「さっきからあの子、凛の事気にしてるじゃない。」 母は、「もう、焦れったい!」と言って私と彼の腕をつかみ、すごい力で私達を外まで引っ張ると、 「二人でちゃんと話をしなさい!お母さんはそっちにいるから!」 と、強引に二人きりにして去っていった。 き、気まずい…。 「あの、第2ボタン貰いました、ありがとう。」 それだけ伝えて、私は逃げた。
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