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話していて、顔が赤くなる程恥ずかしかった。
吉良さんはというと、「微笑ましい」といった感じでニコニコしている。
「その、付き合いたいとか、告白とかしようとか、そういう気はまるでなかったんです。状況だけ聞くと両思いみたいに聞こえますけど、そういう訳でもありませんでした。」
なのに全く、母は余計な事をして…。
黒歴史ではあったが、この話をした事でソフトボール部の暗い話が尾を引かずに済んだ。
私は吉良さんがお茶に手を伸ばすのを見て、同じタイミングでお茶を手にとった。
お互い何も言わなかったけれど、ほんの少しの休憩時間になった。
この時はまだ気付いていなかったが、母の卒業式での行動は、今後の私の人生を大きく変えてしまう出来事のスタート地点だったのかもしれない。
「あ。あぁ~…。」
私はそう言ってガクンと頭を下げた。
もう一つ思い出してしまった、私の黒歴史。
「うん?」
吉良さんは「どうしたの。」と優しい声で言った。
親の希望で、私は姉と同じ私立の高校に入学した。大学受験に力を入れている進学クラスがあり、そのクラスに入る事は出来たものの、正直勉強について行けるか不安だった。
数学は赤点スレスレの悲惨な成績ではあったが、他はなんとかなっていた。
高校2年の時、夏休みを利用してオーストラリアに1ヶ月間ホームステイをする事になった。
英語の成績は悪くなかったが、実生活で話す英語と学校で習う英語はまるで別物、常に電子辞書を持ち歩き、身振り手振りでホストファミリーとやりとりをしていた。
この1ヶ月の間ホームステイで私に身に付いたのは英語力ではなく「身振り手振り」の方で、今でもジェスチャーは健在である。
例えば、就職の面接で困ると体が動くようになってしまった。良いのか悪いのか、ちょっと判断が付かない。
そんな不安しかないホームステイに参加していたのが、人生初の恋人となる「彼」だった。
彼は同じクラスの生徒でありながら、一度も話した事がなかった。
お互い率先して異性に関わるタイプではなかったし、私のクラスでは亀裂でも入っているのかと思う程、男女間の交流が少なかった。
ホームステイ中は、日本人はそれはそれは貴重な存在だった。英語で話す事が苦でない彼は、中でも頼もしい存在に思えた。
成績優秀、女子とは殆ど話さないが、中々ユニークな人柄だという事もわかり、私は彼を意識し始めていた。
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