第1回心の処方箋 -カウンセリングルーム-

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「お待たせしました。」 廊下を歩く音一つ立てず、男性がドアを開けて入ってきた。ノックがなかったので少し驚いたのと、勝手に所長が女性だと思い込んでいたので少し慌ててしまった。 男性が苦手とかそんな事はないが、カウンセラーは女性が多いと無意識に思い込んでいたようで。 「所長の吉良です。草摩さんでしたよね。お名前の方の凛さんって呼ばせてもらっていいですか?」 細身で笑顔を浮かべた顔の男性は、そう言って名刺を差し出した。 なんだろう、笑顔だけどさっきの女性と全然違う。優しさとか話を聞いてくれそうだとかより…ずる賢そうだとか口がうまそうだとか…。 笑顔というより微笑というかニンマリといった表情のような…。 服装は先程の女性同様ラフな格好で、髪の襟足が少し長め、歳は当然知らないが、20代前半といっても過言ではない程かなり若く見える。 髪は黒だし、アクセサリーをしているわけでもないが、なんかこう…チャラいオーラを感じる。 はっとして慌てて名刺を受け取りながら、「構いませんよ。」と答えた。 と、その時、 「やっぱり僕、胡散臭い?」 吉良と名乗る男性は少し困った表情でそう言った。 …なぜわかった!? 表情に出てしまったかもしれない、でも胡散臭いというよりチャラい気がするのであって…いやそういうことではなくて。 「女性だと思ってたのと、なんかお若そうだったので。」 と、できるだけ平静を装って答えた。嘘ではないし。 「よく言われます。どうぞ、かけてください。」 彼は苦笑いしながら、今まで私が座っていたソファーを示した。彼は対面のソファーに座り、私もソファーに座った。 なんとなく気まずくて女性が入れてくれたお茶に手を伸ばした。変わった香りと味、カウンセリングルームだしハーブティーだろうか。 「凛さんはどんな相談でここへ来たのかな。」 話は突然始まった。 「どこかの病院からの紹介かな?」 さっきまでの敬語はどこへやら、でも悪い気はしなかった。 私はここへは偶然通りかかった事、医師からカウンセリングを受けるように言われているが、自分から何を話せば良いのかわからない事、うつ病と診断されているが投薬治療以外に何をしたらいいかわからない事を正直に彼に話した。
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