第5回心の処方箋 -初診-②

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翌日の花火大会はとんでもなく蒸し暑かった。 浴衣を着ていない私に、彼は「時代劇で良くやる、あ~れ~!ができないだろ!」と指を差して言った。 …半分本気だろうか。 そんな視線を感じたのか、彼は「違うから!」と何やら慌てた様子だった。 私達は花火大会会場から少し離れた場所にいた。彼も私も平日は仕事、21時に花火大会は終わるが、彼の帰りの電車の都合でそれより前に引き上げねばならなかった。 花火大会は毎年盛況だった。一日延期になっても、会場から少し離れた所でも、大勢の人が花火を楽しんでいた。 彼が花火を楽しんでいる一方、私はあと1時間もすれば日常に戻らなければならないと考えると、たちまち気分は沈んで行った。 お祭りの後というのは何となく寂しいものだが、寂しいというより、現実と直視する事が苦痛でならなかった。 家に帰っても、花火の余韻など楽しめそうもない。 「また来るからさ。」 新幹線の改札で、彼は同僚のために買ったお土産を大量に持った状態で言った。 雨には降られてしまったが、静岡を満喫していたらしい。 「うん、また。」と見送ると、改札口の向こう側から「また連絡するー!」と彼は叫んだ。 少し恥ずかしかったが、また日常から離れられる事を僅かに期待して、私も帰路についた。 私と彼が付き合い始めるのに、さほど時間はかからなかった。 静岡と東京の遠距離恋愛ではあったけれど、大学の時に往復していたせいか遠くに感じなかったし、会いに行くのにもなんの抵抗もなかった。 交通費はかかるものの、仕事もなんとか続けていたし、月に2回のペースで週末に交代で通い合う事にした。 しかし、ここで厄介だったのが母だった。 彼と会う時だけでなく友人に会う時でさえ、母は私に「いつ誰と何処へ行って、何時に帰ってくるのか。」を確認しないと気が済まなかった。 彼が静岡に来るときは必ず二人で宿泊するようにしていたが、「泊まりで遊びに行く。」と言うのを忘れでもしたら、彼と一緒にいる事を知っていながら「いつ帰ってくるの?」と電話をかけてきた。 会社帰りに寄り道をしても、似たような事が起こった。いつもより帰りが20分程遅れただけで、「今日は残業?」とメールが入った。 友人との飲み会で帰りが遅くなった時には3度程電話が掛かってきた上、夜中の2時頃帰宅したにも関わらず、母は私の帰りを寝ずに待っていた事もあった。
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