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あの後、入学式の顛末は情報通のクラスメイトから聞いていた。文武両道に秀で人望も厚い西川先輩を見込んで、前生徒会長が何度も生徒会入りを打診して断り続けられた結果、騙まし討ちのような形で入学式の場で次期生徒会長候補として挨拶をさせようとしたのだそうだ。なんでも、入学式の席で新入生達に現生徒会長が次期会長候補を紹介する伝統があるらしい。きっと、そこで顔を売っておいて新入生の信任を得るという意味があるのだろう。
結局は西川先輩が捕まらなかったおかげで、元から次期会長職を狙っていたという人がちゃっかり挨拶をして事なきを得たらしいけれど。
「無責任に逃げ出した臆病者だと思われるのは、若干心外だけどまぁ、しかたないか」
「そんな、臆病者だなんて全然思ってないです! 先輩は男らしくてかっこいいです!」
勢いで言ってしまった後で、自分がとんでもなく恥ずかしいことを口走ったと気づいたがもう遅い。先輩は一旦ぽかんと口をあけたかと思うと、すぐにいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「尚里にそこまで褒められると、照れるな」
「あ……」
いきなり尚里と親しげに呼び捨てにされ、その上、ぽんぽんと毛布の上から脚を触られ、顔がかぁっと熱くなる。
「で、尚里はまた風邪ひいたのか? 顔が赤いな」
少しひんやりした大きな手が、さらりと額に触れた。
「今日は貧血っていうか、ちょっと眩暈がして」
「ふ……ん、熱はないみたいだな」
顔が赤いのは緊張と恥ずかしさのせいだけれど、もちろんそんな事は言えない。心臓は相変わらずばくばくしていて、くらくらと眩暈までしてきそうだ。
「あ、ごめん」
目を伏せ黙りこくってしまった僕に、先輩は慌てて手を退けた。
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