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「急ににわか雨に降られた時、濡れたくないと思って、軒下とか木の下を通ったりすることあるだろ? でも、結局は濡れちまうことに変わりはない。だったら、はじめから雨は濡れるものだと覚悟していれば、苦にはならないって事だ」
「えと、つまり弱点は誰にでもあるからうじうじ考えてばっかりいないで、気にせずどーんと進めってことですか?」
「まぁ、そういう捉え方もあるだろうけど」
先輩は少しだけ気まずそうに耳の後ろを掻いた。
「俺が言いたいのはつまり、自分の気持ちからどれだけ目を逸らしたって、結局想いは何も変わらないし変えられない。それならば潔く認めて受け入れようってことだ」
「え?」
言葉の真意がわからず戸惑う僕に、先輩の真剣なまなざしがそそがれる。
「入学式の日以来、ずっと頭から離れなかった。そんな筈はない、何かの思い違いだ気の迷いだと振り払おうとしてみても、日にちが経つほど想いは消えるどころかどんどん増していく。こうやって会ってまた話して、結局はそんな悪あがきは無駄だと気づいた」
先輩は一旦呼吸を整えるように深く息をすると、再び口を開いた。
「尚里、お前が好きだ」
「せん、ぱ……」
何かが胸にすとんと落ちて、同時に涙がぽろりと零れた。
「って。えっ!? ごめん、急にこんな事言われたら驚くよな。困らせるようなこと言って悪かった」
わたわたと焦る先輩。僕は手の甲で涙を拭うように顔を覆い、ぶんぶんと首を横に振った。
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