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子供の頃からずっと風邪をひきやすかったり貧血を起こしやすかったりするが、別にどこかに深刻な病気を抱えている訳ではない。ただ、ひ弱なだけなのだ。自分なりに牛乳をたくさん飲んでみたり、ご飯をおかわりしてみたり、調子のいい時にはジョギングをしてみたりもしているが、体質は一向に改善されない。
僕はシーツの中から腕を出して目の前にかざしてみた。日に焼けていない青白い手。高校生になったらきっとぐんぐん成長するという希望的観測のもとに買ったワイシャツは大きすぎてぶかぶかで、贅肉も筋肉もついていない腕をより一層華奢に見せている。自分の不甲斐ない身体が本当にいやになる。
そんな暗い気持ちをぐるぐると捏ね回しているうちに、さっき先生からもらった風邪薬が効いてきたのか、睡魔が襲ってきた。ぽかぽかと差し込む日差しも初夏のようにあたたかくて、強張った心をゆるゆると溶かしてゆく。
いつの間にか僕は遠くで聞こえる飛行機の音や、小鳥のさえずりを子守唄にうとうととまどろんでいた。
ふと、人の気配を感じたと思ったら次の瞬間には額にさらりと誰かの手が触れた。ひんやりとしていて気持ちがいいな、なんてまだ上手く働かない頭で考える。
カーテンを揺らし吹き込む南風が、レモンのような爽やかな香りをふわりと漂わせて、僕の意識を覚醒へと傾けた。
重い瞼をゆっくりと持ち上げると傍らに人が立っている。窓側なので逆光で影になりその人物の表情は見えないが、保健室の先生ではなく同じ制服に身を包んだ学生だということはわかった。
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