196人が本棚に入れています
本棚に追加
「ん? あ、わりぃ、起こしちまったか?」
大人びた声。上級生だろうか。
目を眇めてよくよく見てみると、少し長めの前髪からのぞく瞳は切れ長でとても男らしいし、整った顔立ちと着崩した制服の上からでもわかる立派な体格は、すでに成長しきった大人の男という感じだ。
「平気です。ちょっとうとうとしてただけだし――! コホッ」
見知らぬ先輩を前に、いつまでも横になったままではまずいかと身体を起こそうとしたら、咳がぶりかえしてきた。いきなり喉を使ったのが悪かったと悔やんでみても後の祭りだ。
「ゴホッゴホッ」
「おい! 大丈夫か!?」
先輩は、慌てたようにベッドの傍らに跪いて僕の顔を心配そうに覗き込む。口元に手をあてたままうんうんと頷いて見せるが、肝心の咳は全く収まる気配がない。早く止めなければ、と焦るほどかーっと頭に血が上り咳がこみ上げる。
「ゴホッゴホッ、ケホッ」
いつの間にか、先輩の手が僕の背中をさすっていた。薄いシャツごしに大きな掌から体温が伝わる。
「ケホ……」
「まじで大丈夫か? 先生呼んで来たほうがいいんじゃないか?」
「いえ、大丈夫です。ただの風邪ですから……ごめんなさい」
最初のコメントを投稿しよう!