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なんとか咳は収まったが僕は、先輩の顔をみるのがなんだかいたたまれなくて俯いた。
「なんで謝るんだ?」
「え……?」
予想外の言葉に思わず顔をあげると、先輩の不思議そうな視線とぶつかった。
「別に、お前だって好き好んで風邪引いたわけじゃないだろ? なんにも悪いことなんかしてないんだから謝る必要はないさ」
「でも、僕、身体が弱くて、いつもいろんな人に迷惑かけてるから……」
「ばか、気にすんなよ。誰だって弱点の一つや二つあって当然だ。それを補い合って持ちつ持たれつするのが人間ってもんだろ」
いつも心配されたり優しくされたり気を遣われたりするばかりで、心苦しく思っていた僕に先輩の言葉は新鮮だった。僕もいつか誰かの弱点を補ってあげることができるだろうか。
「かくいう俺は、虫が弱点だ」
「虫?」
「あぁ、あのほっそい脚とかがもぞもぞ蠢いてるのを見たりしたらもう……、って。うぉー! 想像しただけで鳥肌たってきたっ!」
先輩はぶるっと身震いして自分の腕をさすり始めた。大人っぽい外見に似合わない、子供っぽい仕種がかわいらしくて僕は思わず吹き出してしまった。
すると、僕の表情をみた先輩が急に動きを止めてぽかんと口を開けたまま固まってしまった。
「あの……?」
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