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「いや、なんでもない。っつかお前さ、笑ってたほうが全然いいよ」
心なしか耳が赤くなってるけど、どうしたんだろう。首を傾げる僕をよそに、先輩は「あ、そうだ」と急に立ち上がりごそごそとズボンのポケットを探り出した。
「今度咳出そうになったら、これ舐めとけよ」
差し出されたのはレモン味ののど飴。
「あ……ありがとうございます」
これで、なぜ目覚める時にレモンの香りがしていたのか合点がいった。先輩もきっと同じものを舐めていたのだ。
その時、ガラガラッと勢いよく戸が開く音がした。
「野村!」
「は、はい!」
間髪おかずに名を呼ばれ、思わずびくりと背筋を伸ばした。パーテーションに遮られているので姿は見えないが、この声は先ほど保健室まで僕を運んでくれた担任の吉田先生のものだ。
「どうだ、身体の具合は」
きゅっきゅっとリノリウムの床を歩く足音が近づいてくる。やべっ、と小声で呟いた先輩はあたふたと周囲を見回している。
「今、式が終わったところだがどうする? この後は教室に戻って今後の予定なんかを説明するつもりだが、もしまだキツいなら誰かに言ってプリントだけ……」
パーテーションの隙間から吉田先生のいかつい顔がひょっこりと現れ、そしてみるみるうちに眉間に皺が寄った。
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