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 メンバーズカードにある料金表は、広務の通っている美容院とほぼ同額だった。広務が小学生の頃は父親と共に近所の「理容院」に行ってカットしてもらったものだが、最近の子供は近所の「サロン」に行くのが常識なのか。これが世代の格差というものか。 「おんなじクラスの小川サツキングのおじさんの友達のお父さんがやってる近所の美容院でサツキングのおじさんの友達の人に切ってもらってるんだー」 「へー……」  『おんなじクラスの小川サツキングのおじさん』あたりまではフムフムと聞いていたものの、その回りくどい説明をよくよく解釈してみると、近所の美容院で切ってもらっているという単純な話だった。子供ってなんでこうも面倒くさい話し方をするのだろう。  簡単な昼食をすませた後、散歩がてら、広務も美容院についていくことにした。駅から続く商店街を抜けたあたりに、その美容院はあるらしい。  この町に越してきてひとつ良かった点をあげるならば、駅から続く長い商店街があることだ。新旧様々な商店が並び、活気に満ち溢れている。近くに大学があり、学生街ということで若者の姿が多い。  瑛太の行きつけの美容院はガラス張りの二階建てで、外からうかがうにやはり客の年齢層は若い。  広務達が店の表に着くなりガラスの扉が開き、子供が二人転がるように飛び出してきた。 「エイタンク!」 「サツキング!ヨーチン!」  微妙すぎるセンスのあだ名で呼び合う少年達。その中の一人が噂のサツキングらしい。 「これ、俺のニューとうちゃん」  瑛太がどこか誇らしげに広務を紹介すると、サツキングこと皐月(さつき)くんと、ヨーチンこと(よう)くんは「おおっ」と大げさに驚いた。 「こんにちは」 「こんにちは!エイタンクんちのおじさん、お兄さんみたい!」  相手が子供といえど、ほめられればまんざらでもない気分になる。『おじさん』と呼ばれたのは少々ショックだったものの、広務は友好的な笑みを満面に浮かべた。 「あれっ、瑛太くんのパパ?」  再びドアが開き、広務と同年代と思われる男性が顔を見せた。白い七分袖のカットソーに黒いパンツ、腰につけたシザーケースを見るに、どうやら瑛太の髪を切ってくれている美容師だと判断する。
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