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 子供と暮らすということは、確実に自分の時間が削がれていくものだ。瑛太との日々を重ねるにつれ、広務はあらためてそう感じる。  まず朝昼晩三食の用意──平日は給食があるので二食だが、それだけでもかなりの負担だ。そして毎日しなければいけないといえば、音読の宿題だ。瑛太が教科書を音読するのを聞き、音読カードに評価の丸つけ&保護者のサインを記入する。  それくらい簡単じゃないかと思うかもしれないが、毎日毎日、年中無休でとなると面倒くさいと思わずにはいられない。瑛太の音読をBGMと感じるには、まだ広務はその域に達していないのだ。そんな雑多な用事が細々とあり、就寝時にはぐったりしてしまう。 「あ~、一発抜いてスッキリしたいな~……」 「葛岡さん、何か言いましたか?」  ついつい心の声が口から漏れていたようだ。斜め後ろに着いてきている椎名が首を傾げている。 「なんでもないよ」  広務は気付かれないようにため息を吐いた。この際、椎名でもいいから抱いてくれないだろうか──、なんて思ってしまったことは内緒だ。  自分のデスクに戻り、椅子に腰かけようとした時だった。契約社員の事務員が広務に付箋のメモを手渡してきた。 「つい先ほど葛岡さんあてにお電話ありました。戻り次第折り返し電話しますって言っておいたんで」 「え──」  メモに書かれているのは、瑛太の通っている学校とうろ覚えの担任教師の名前だ。 「ねえ!電話番号聞かなかったの!?」  まさか学校から電話があるとは思っておらず、広務は焦ってつい声を荒げた。事務員は不思議そうな顔をして広務を見返した。 「は?電話番号ですか?だって息子さんの通っている学校ですよね?」 「そうだけど……!」
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