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 最近の若者はやはり、スルー(りょく)に長けている。  あんな出来事があったのに、週明け、椎名の態度は以前と全く変わらなかった。ぶんぶんと見えないしっぽを振りまくり広務の後をついてくる。「葛岡さん、葛岡さん」と屈託のない笑顔で広務の名前を連呼する。  空気が読めない、図々しい、全て丸めて表現すると「脳天気な馬鹿」とでも言えばいいのだろうか。椎名は親愛の情を全身でぶつけてくる。が──。 『失敗した』  その言葉は広務の胸に小さな棘として刺さり続けている。  だまされてはいけない。勘違いしてはいけない。椎名と自分は違う人種。  ほんの五歳程度の差ではあるが、最近の若者というのはこんな感じなのだろうと、広務は自分を納得させた。心を開いた人間に対しては、きっとこれくらい距離感が近くなるのが普通なのだろう。  それに椎名は空気が読めないのとはちょっと違う。外回りに連れて行けば、TPOに合ったしゃべり方やビジネスマナーはちゃんと身につけているし、押すところは押すが退くところは退くという駆け引きもちゃんとできる。  だから広務は「最近の若者はこんなもの」というおおざっぱな見解で色んなことを納得させた。  しかしあの日から、椎名に瑛太を預けて出かけることは一切していない。そもそもが会社の後輩に子守(こもり)させるのが間違いだったのだ。
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