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「俺、他の三人と撮影した時、全員何度か撮り直しました」
マジかよ、頑張ってるなぁ遠田くん。
スケジュールの関係で俺だけ撮影が遅れてる。六人相手する中で、俺は一緒に撮影というのは遠田くんが初めてだった。
「練習しといたほうがいいのかなぁ……」
「いいと思いますよ」
ビールを飲みながら、冷静に返す遠田くん。やっぱ、そうだよな、慣れてないことを一発でやるのは無理だろうなぁ。俺は女とのキスシーンもしたことがないってのに。
「じゃあ、最初嘉島さんタチでやってみましょう」
唐突に、遠田くんがソファから立ち上がった。
「えっ!?」
俺は思わず腰が引ける。俺がタチのエンディングは、弁護士事務所の壁に遠田くんを押さえつけてのキス。壁さえあれば練習できる。
「……わかった」
練習しないと撮り直し、それだけは避けたくて、俺はソファから壁際に遠田くんを手招く。台本を開き、セリフを確認し合ってから、台本を置き、向き合った。
俺は背が高いほうだが、遠田くんはそれよりもやや高い。体格は俺より彼のほうがはるかにいい。その遠田くんの左手に指を絡め右手首を掴んで、壁に押しつけ、インテリ風に見つめる。
『君に出会わなかったら、俺は道を踏み外していた。ありがとう』
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