ゑびす

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「今日は随分と当たるぞ。」 肩の上に乗った彼が話しかけてくる。 「そうか、ありがとう。でも運とか縁起とかそういうものは信じてない。」 光希は心の中で言った。彼には光希が考えたことは声に出さなくても通じるらしい。 鉄道の上を通る橋を渡り、東側の繁華街へ下りる。橋の西側のビジネスライクに均質的な街並みに比べ、東側は飲み屋や安靴屋や、その類の店が無秩序に広がっている。西側と東側の世界は鉄道によって隔てられ、街は全体として良い均衡を保っていた。光希はその西側から東側に、東側から西側に橋を渡るとき、身構えるような緊張感を覚える。まるで自分1人の体重で、西側と東側の世界のバランスが崩れてしまうのではないかというように。無論、それはは光希の妄想に過ぎない。橋は頑丈で、街は確固たるものだった。揺れたり、変化したりするのは光希の方だった。橋の東側に下りると、光希は猥雑な建物の群れの中に吸い込まれてゆく。 光希はその繁華街に面したパチンコ店に向かっていた。駅に近づくにつれて人通りが多くなる。歩く人と人との距離が狭くなる。光希は周りの目を気にしてみるが、肩の上の彼の存在は他の人間には見ることができないようだった。 しかし、光希には確かに見える。そのしわがれた声も聞こえる。そして肩に乗る重ささえも、光希には感じられるのだった。光希は五感をフルに使って、彼が確かに存在することを認める。彼の存在が他の人間には感知できないことからすると、彼の見た目について客観的に描写することは意味のないことだが、敢えて表現するならば、彼はゑびす様の姿をしていた。あの七福神の内の一体に数えられるゑびす様だ。ゑびす様といっても色々な形態があると指摘する人があるかも知れない。正確に言えば、彼の名前を冠したビールのロゴに描かれるゑびす様の姿だ。魚籠を背負い、片手に竹の釣竿を持ち、もう片方の手に鯛を抱えている。垂れ目で福耳で頭にちょこんと烏帽子を載せている。体長は10センチほどで、重さは200グラムから300グラムといったところだろうか。 光希は今その小さなゑびす様を肩に乗せて、繁華街を歩いている。
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