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彼が初めて光希の前に現れたとき、光希は少し酔っ払っていた。缶ビールを数缶に続けて、オンザロックのジムビームを舌で舐めたとき、彼はテーブルの上に現れた。
酔って幻でも見ているのだろうか。光希は思った。
「幻ではない。」
小さなゑびす様が光希をじっと見つめて喋った。
光希は唾液に混じったウイスキーをゴクリと飲み込む。正気ではない。どんなに酔ってもこんなことは今までなかった。光希はその存在を打ち消そうと、振り払うように手を伸ばした。しかし、予想に反して彼の指に柔らかい感触が伝わる。
「私は存在している。」
光希はそのしわがれた声を聞く。
彼は確かにそこに存在していた。
「オーケイ、君は存在している。すると君は一体何者なんだ?」
こんなのどうかしてる。光希は苦笑しながら言葉に出して言った。
「私は何者でもない。」
彼は真顔で言った。これは後で分かったことだが、ゑびす様は表情を全く持たなかった。
存在しているが何者でもない。
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