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固まった糸をようやくほぐし終え、束になっていた一角を解くことには成功した。このままスルスルと元に戻ってくれればいいのだが、人生と同じように事はそう上手く運ばない。絡まった部分に出来た玉結びのような結び目が思ったより手強く、何度やっても一向に解ける気配がない。時間は刻一刻と迫っているというのに……困ったな。
「なによ。まだ解けないの?」
「結神様」
「何張り切ってんのか知らないけどさぁ、そんな無駄なことしてないでさっさと異動の準備でも始めたら?」
「準備は後からでいいんです。俺の最優先事項はこれですから」
「ていうかさ、そんな糸さっさと切っちゃえばいいのよ。さくっと切って何もかもリセットして新しい道に進むの。その方がよくない? アンタもあの子も無駄な時間過ごさなくていいわけだし。あ、切子ちゃんでも呼んでスパッと切ってもらえば? ホントはあたしが切りたいところだけど問題起こすとあのクソ似非エリートが来るから嫌なのよね」
「切れるわけないじゃないですかこんな大事な糸。だって、この細い糸はそれぞれの〝想い〟で出来てるんですよ? それを簡単に切るなんて俺には出来ません」
「……なによムキになっちゃって。ま、どーでもいいけど」
生駒はジロリと結神を睨む。
「それより。結神様こそちゃんと仕事してるんですか? 結神帳のリスト、全然消化されてないんですけど」
「うるさいわね!! アンタこそ直すならさっさと直しなさいよ!! 毎日こちゃこちゃこちゃこちゃ目障りなのよ!!」
「……そういえば島崎くんは無事にクリスマスプレゼントを買えたんでしょうか。トラブルとか起きてなければいいですけど……」
不安げな生駒を嘲笑うかのように、結神は外を見ながらサラリと言った。
「そうね。ザンネンながら何かあったみたいよ? あの子の顔に書いてある」
「えっ?」
参道を真っ直ぐ歩いて来るのは高橋綾乃だった。その顔は怒っているような悲しんでいるような……少なくとも良いことがあってここに来たわけではないようだ。
生駒の細やかな祈りは、どうやら通じなかったらしい。
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