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「お前何やってんの?」
「……島崎」
あたしの腕を掴んでいるのはダウンジャケットを着た島崎だった。
「あれ? つーか山口じゃん。こんなとこで何してんだよ?」
「……いや、俺は……」
「どーでもいいけど、こいつはこのあと俺と約束してるから。ほら、行くぞ!」
「は!? ちょっと待ってよ! あたしまだバイト終わってな……ちょっと!!」
島崎に無理やり引っ張られ、ウェイトレス姿のままあたしは見事に拉致された。同僚に助けを求めてみるも、何故かみんな生温かい視線を寄越すだけで助けてくれる気配は微塵もない。……嘘でしょ。
「ちょっと! 島崎! 島崎ってば!」
無言でズンズン進んで行く島崎を呼んでも、その足は止まってくれない。
「止まれって言ってんでしょ! バ和也!」
イライラしたあたしがつい昔みたいに島崎のことを呼ぶと、驚いたように振り返ってようやくその足を止めた。
「なんなのよ突然!!」
「……悪い」
「あたしまだバイト終わってないし! こんな格好で恥ずかしいしめちゃくちゃ寒いし!! 山口くんとも話途中だし!! てかこれでクビになったらどうしてくれんのよ!!」
「……だって……お前が取られるかと思ったんだよ」
「はぁ!?」
ぼそりと言って、島崎はバツが悪そうに頭をかいた。心臓がドキドキとうるさいのはここまで走ってきたせいだ。
「……な、によそれ」
その言葉で、あたしの中の何かがキレた。
「なんなのよ……こんな思わせぶりなことしないでよ!! 彼女いるくせに!!」
「……は?」
「あたし見たんだから。土曜日、アンタが彼女と歩いてるとこ。あたしに好きって言ったの冗談だったんでしょ。そうだよね。アンタ、中学の時友達にあたしのこと好きになるわけないって言ってたもんね」
「は、はぁ!? 違っ、全部誤解だって!」
「なにが!? すぐ彼女作って、あげく取っ替え引っ替えしてたくせに! それでずっと好きだったなんてありえるわけないじゃんバカじゃないの!! 今日だって! 彼女のとこ行けばいいじゃんなんで来んのよ!!」
「とにかく全部違うんだよ! 俺はホントに昔からお前のこと、」
「もういい加減にしてよ! あたしのこと振り回すのはやめて!!」
後ろを向いて走り出そうにも、掴まれたままの手が邪魔をする。
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