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年末特有のバタバタに追われながら、時間はあっという間に過ぎていった。その間に参拝客もチラホラと訪れたが、恋愛ごとに関しての願いは特になかった。1年間の感謝を伝える者がほとんどで、仕事もせず少ないながらもお金が入ってくるという現状に、結神の機嫌は上々だった。
──そして。生駒の異動を明後日に控えた、12月30日。
本殿から戻って来ると、結神の姿がどこにも見当たらない。変化の羽衣もなくなっていることから、どうやらまた勝手にどこかに出掛けてしまったらしい。
まったく、何度も注意してるというのに……最後まで世話の焼ける神様だ。
「たっだいまー!!」
ちょうどいいタイミングで陽気な結神の声が拝殿に響いた。
「ちょっと結神様!! また勝手に外に出ましたね!! 仕事ほったらかしてどこに行ってたんですか!!」
「まぁったく年の瀬になに堅いこと言ってんのよ! ほら! これ見て! 買ってきた!」
ほくほくと嬉しそうに掲げられた両手には、パンパンに詰め込まれたスーパーのビニール袋。その中身は酒、酒、酒、イカ、ピーナッツ、酒、酒、酒……。
「うわっ! 一体何ダースあるんですかこれ!? どんだけ飲む気なんですか1年の終わりだからって羽目外しすぎるのは禁止ですよ!! 言っておきますけど介抱なんて絶対にしませんからね!? そんな時間ありませんから!」
「まぁまぁいいじゃないの今日くらい! アンタのお別れ会なんだから無礼講よ!!」
「……え?」
「送・別・会! 一応長年うちにいたわけだし? それくらいはやってやんなきゃ上司として失格でしょ?」
「……そんな事言って。貴方の場合ただ酒盛りしたいだけでしょう」
「失礼ね! 人の厚意は素直に受け取るものよ!! ほらほら座って! 今日は飲むわよ!!」
言うや否や、袋から取り出した缶をプシュ、と勢いよく開ける。生駒も結神に従ってプルタブに指をかけた。
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