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「他人の幸せなんか嫌!! あたしも幸せになりたいの!!」
拝殿の中に悲痛な叫び声が響いた。
紅白の神御衣に身を包み、艶のある長い黒髪を靡かせ、黙っていれば美しく整っている顔を不機嫌そうに歪めたその女は、手に持っていた数本の赤い糸をバシリと床に叩き付ける。
「ああもうまたそんな事して! 赤い糸はもっと大切に扱って下さいっていつも言ってるでしょう! 一本一本が大事な〝縁〟なんですからね!」
その行動をビシリと注意したのは、鶯色の狩衣を身に付けた真面目そうな男だった。
「うるさいわね! こんな糸どうでもいいのよ! どうせ全部他人のものだし! あたしに直接関係あるわけじゃないし!」
「いいからさっさと仕事して下さいよ。ほら、お客様がお見えになってますよ」
男の言葉に、女は眉間にぐっとシワを寄せた。
「はぁ? 客って言ったってどうせあれでしょ? なんとかくんと付き合えますように~とかなんとかくんと結婚出来ますように~とかいうリア充目指したクソ女どもでしょ? フンッ! そんな戯言誰が聞くか! おとといきやがれバカ野郎!」
男はひとつ溜息を吐く。
「……またそんな文句ばっかり」
「だってさ、何が楽しくて他人の縁なんか結ばなきゃいけないわけ? マジで意味わかんないんですけど。分かんなすぎて逆に笑えるあはははは」
「何を今更そんなこと。だって当たり前でしょう。ここは縁結びの神社なんですから」
──そう。
彼の言う通り、ここは縁結びで有名な結野神社だ。
昔は恋愛成就によく効くと評判で人の出入りも激しかったのだが、今では1日に数人程度が良い方とだいぶ落ちぶれてしまった。その原因は……アレを見れば簡単に想像がつくだろう。
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