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「それはサユちゃんが優しいから」
あたしが相談にのってるの知ってて、そう言ってくれてるんだ。そんな気づかいをされたりすると、よけいに『負け』を実感する。
小さく下唇を噛む。
爾は気持ちに言葉が追いつかなくて支離滅裂になるのを、もどかしそうに両手をにぎり拳にして、まっすぐな瞳であたしを貫く。
「ちがう、サユちゃんは優しいけど嘘つかないし、嗣美は間違ってないし、こうして話すの必要だし、てゆうか俺は、嗣美と喋る時間がへるの嫌だ、つまんない!」
ぐらり、眩暈をおこしそうになる。
ああ、こういうとこだ。爾の言うことに深い意味なんてない。変に期待するだけ無駄。なのに、いちいち食らってしまう。たとえ、ただの相談相手としか思われていないことを、ちゃんと自覚していても。
だから、もう終わりにしたいんだ。
「どう頑張っても、これ以上は無理。だって、爾の告白、サユちゃんには刺さってなくても……」
こんなこと言うつもりじゃなかったんだけどな、と心の中でため息。リュックを取って立ち上がる。
「あたしには刺さってる。ひとつ残らず全部」
ぽかんと口を開けて仰ぎ見ていた爾が、だんだん真っ赤になるのを見届けて、教室を出る。
背後で、待って嗣美、という声のあとにバタンと椅子の倒れる音がして、痛ぇ! と悲鳴が続いた。
あんなそそっかしいヤツのどこがいいんだろ、と思ったら無性に笑えた。
別棟の音楽室からは、吹奏楽部の華やかなハーモニーが鳴り響いていた。
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