山間部の公民館で。

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既に年老いた犬であるので、この子は可笑しい話だけど、私にとってはまだまだ子供のように感じてしまって可愛らしい。 時折この子は何を思ったのか、器用に首輪を外して気まぐれの旅に出る癖があり、それも子犬の頃からなのだから呆れてしまう。 初めて彼女が旅に出た時にはおじいさんと二人で村中どころか、遠く町まで探して回ったものだけど、三日もするとひょっこり帰って来る癖を掴んでからは、だんだん慌てなくなってしまい、そのうち腹が減ったら帰って来るさと云う、おじいさんの諦めた表情に苦笑いしつつ、どんな高価で良い首輪でも、時間をかけ脱出してしまう彼女の手品の妙技に感心して、つい微笑んでいた頃も懐かしい。 八十年以上、この村で過ごしてきた私たち夫婦でも知らない道も熟知している彼女が先導してくれるなら、安心だわ。 そう思う以外にないのだから仕方ないわ。 ふふ♪ 思わず微笑んだ私は、彼女に導かれたまま入り込んだ畦道(あぜみち)を進んでいくのだった。 あら、いらっしゃい!遠かったでしょ。道、大丈夫だった? この子が案内役をしてくれたから大丈夫よ。 自治会長の奥さんが私たちをにこやかに出迎えてくれた。 尻尾(しっぽ)を目一杯振りながら奥さんに甘える彼女を見つつ、気さくに挨拶を交わす。     
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