浅草の仲見世で。

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浅草の仲見世で。

 浅草の仲見世で惨劇が起こった。  一人の観光客とおぼしき女性の腹が突如膨れ上がり、裂け、中身が血しぶきと共に周辺に飛び散ったのだ。  悲鳴と驚声(きょうせい)、助けを呼ぶ怒号(どごう)叫喚(きょうかん)が入り交じる中、彼女の赤い血液を浴びたまま慌てふためく人々をよそに、血まみれで倒れた女性を取り囲み、今更どうにもならない状況まで破壊された人体だった肉塊を見つめ、ただ茫然と(たたず)み、救急隊か警察が早く現れて事態を収拾してくれないかと願うばかりであるみたいだった。  まあ、あたしもその中の一人なんだけどね。 人の死を、それも異常な死の瞬間と云うモノを初めて生で見たのだけれど、特にこれといった感情がふしぎと湧いてこない。 あたしってば、一種の不感症なのかもしれない。 とか、つい思ってしまった。  …ここにいても仕方がない、かな。  上空には事件を聞き付けたらしいマスコミのヘリが、まるで腐った食物に群がるハエの様に飛び交い、脇をウジ虫のように我先にと現場に駆けつけていく。  気持ち悪い。  思春期特有の厭世観(えんせいかん)なのか、それとも単にそう云った倫理観に欠けた行為が嫌いなだけなのか、あたしはアソコで一人で倒れ、このあと一週間くらいはメディアによって世間の晒し者にされるだろう彼女に少し同情した。  でも、それでもやっぱり世の中の出来事は気になってしまう。  さっきの騒ぎがどう騒がれているのか、現場にいた当事者として、眼前で見てしまった異常な事態が世の中ではどう見られているのか気になってしまい、おもむろに黒いスカートのポッケからスマホを取りだして、いつも見ている投稿アプリを開いて検索を開始する。  すると、あっさり事件のアップ動画や画像に行き当たり、しかもついさっきの話なのに、もう世界中の人たちが注視していることに驚いた。  海外でも有名な観光地でもある浅草の仲見世で起こったのもあるんだろうけど、日本に来ている外国人の投稿の多さに驚かされたし、その内容にバラつきや誤報が混ざってはいるものの、おおよそは合っている情報や、彼女の腹が裂けた瞬間の動画までアップされていてビックリしてしまう。  
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