退避命令の最中で。

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退避命令の最中で。

 こ、これくらいあったら大丈夫かな。  私は嫁さんに荷物の確認をお願いする。  アンタ、飲み物忘れているよ!  しまった。  我が家の大黒柱(だいこくばしら)様(さま)がお怒りだ。  途中にあるだろうコンビニか、自販機でも買えばいいかと思って、大量に買い込んであった防災用飲料水が詰められたビニール袋の存在を、うっかり忘れてしまっていた。 すいません。  私は素直に謝っておく。  あの奇病とやらが流行りまくったせいで、今の私は無職でニートなのだから。    あの奇病が出所も予防法も治療方法も不明なばっかりに。  私が勤めていた食料品を主に扱う小さな商社が潰れたのは、十日ほど前。   朝、取引先に伺うため早めに出勤した私が社内で眼にしたのは、首を吊った社長夫妻の姿と、会社が昨日付で倒産した旨を書き記した、涙の後が残った遺書であった。  慌てた私があたふたしているところに、遅れて出勤してきた事務員のおばちゃんと、私と同じく営業を担当していた若者が、手早く警察と消防に電話してしまったのに気が付いたのは、若者に落ち着いてくださいと言われた後であった。     
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