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山間部の公民館で。
じゃあ行きますよ。
私は車椅子に座るおじいさんと、齢17歳になるメスの老犬に声を掛ける。
わかった、わかった。
くぅ~ん。
長年連れ添ったおじいさんと飼い犬の返事を聞き、車椅子のハンドルを握った私はゆっくりとした足取りで、この地域の公民館に向かうことにする。
今日は週に四回開かれている、地域懇親会という名の食べ飲み会のある日だった。
昨年までは毎回参加していたのだけれど、おじいさんの足腰が立たなくなってからは月に一回か二回、調子が良い時だけ参加することにしていた。
久しぶりに行くねぇ~。あいつは元気にしているかな。
傍らをトボトボ歩く老犬の頭をなでながら、おじいさんは幼馴染の親友のことを切り出した。
元気そうでしたよ。このまえ診療所であったじゃないですか。
返事はない。
おじいさんは上の空な顔をして、何処までも続きそうな澄み切った青空をただ眺めているだけ。
先を急ぎましょうか。
先導を自らかって出てくれた老犬に話しかけ、老犬は老犬で誇らしげな顔をして時々振り返りながら先を急かす様に前進していく。
この子にも困ったものだわ。
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