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 男が目を覚まして聞いたのは、あのとき置いてきた仲間達の死と、男の負った傷が大きすぎてあまり長くないという死の宣告だった。  自分の命のことよりも、自分のせいで仲間を死なせてしまったことに、男は悔いて、悔いて、声を殺して泣いた。やっぱりあのとき自分も残って一緒に戦っていたら、あいつらだけで逝かせたりなんかしなかったのに、と。  けれど生き残ったのも仲間のおかげだと、男は残り少ない時間を生きるために使うことを決める。 (あの女に、礼、言わねえとな)  まずは助けを呼んでくれた女性のことを調べることにした。幸い、男は裏社会に生きる男なので、人一人調べることなど簡単だった。  調べて分かったのは、名前と住所はもちろん、親元を離れ、友人も少ない少女は家と学校とバイトとを行き来するだけの日々を送っているということ。家の明かりが点いてるのも、帰宅から一、二時間のみ。 (まともなもん食ってるようには見えねえな)  そのときはどう少女に接触したらいいのかが分からず、何もしない日々が続いた。  だがそれも、もうじきあの冬から一年が経つという頃、変化が訪れる。男が吐血するようになったのだ。 「いよいよ、終わりが近いってことか」  自身の手にべったりとついた己の血を見て呟く。けれど男にはまだやらなければならないことがある。 「駄目だ、まだ死ねねえ。まだ、まだあいつに礼を言ってねえ!」  そして男はもう形振り構っていられないと、今まで一度もやったことのない料理を覚え、自分を機械だと偽って少女に近付いた。  自分の言動にかなり無理があることなど、男が一番よく分かっていた。  少女が家にいない間に外で食事と入浴を済ませ、少女より遅く眠り、少女より早く起きて、少女の前ではいかにも機械のように振る舞ってきた。
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