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「私の名前は商品番号1810。これからご主人様のお世話をさせていただきます」
「商品? お世話?」
ますます混乱するばかりの麻智。だが変わらずこちらをじっと見てくるだけの視線にはっとして、「いやいやいや!」と首を振る。
「意味分かんないこと言ってないで、生きてるんなら帰って! ここにいられても困るの!」
それだけ言って急いで鞄から鍵を探し出し、鍵穴に差し込んでドアを開け、直ぐ様閉める。何だか妙に疲れている。息も少し荒い。
(何なの? あれ。新手の変質者か何か?)
とにかくやばそうな人だということはよくよく分かったので、麻智は鍵をかけて靴を脱ぎ、リビングへと進む。
軽めに夕食を済ませ、お風呂にも入って、あとは歯を磨いて寝るだけとなった頃。ふと玄関先が気になり、怖いと思いつつ、足音を立てないように玄関に近付き、内側の窓からこっそりと外の様子を覗き見る。
(う、うそ……)
男性は、今も変わらずそこに立っていた。それも先程までと全く同じ立ち位置、表情で。顔色一つ変えることなく、ただそこに佇んでいた。
まさかあれから数時間も経っているというのに微動だにせずそこにいるということに、驚愕と同時に恐怖が込み上げる。
「ちょっと、何でまだ家の前にいるわけ? ここにいられても困るって言ったじゃない!」
「私はご主人様のお世話をするために存在します。役目を全う出来ないのであれば、私に行く場所などありません」
「はあ? 行く場所がないなんてそんな……」
「そんなわけないでしょ」と紡ぐはずだった唇は中途半端に言葉を紡ぐことをやめる。誰かの足音が聞こえてきたのだ。
「もうっ!」
とにかくこの男をどうにかしないと! その一心で男性の腕を引き、家の中に入れると、玄関前に置いたままの段ボールをバリッ、バリッと乱暴に折りたたみ、人が来る前に麻智も家の中に入る。
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