1人が本棚に入れています
本棚に追加
「……」
「おかえりなさいませ、ご主人様」
(お前はメイド喫茶のメイドかっ……!)
帰宅してすぐにそう言ってきた男性に思わず心の中でツッコミを入れる麻智。はあ、と小さく溜息をつく。
「もう、どうして帰らないの……」
「私はご主人様のお世話をするために存在します。役目を全う出来ないのであれば、私に行く場所などありません」
「それはもう何度も聞いたし」
出ていってと言っても聞かないし、追い出しても気付けば勝手に家の中に入ってきては当たり前のように家事をしている男性。何だかもう、麻智は彼の相手をすることに疲れてしまった。何度言っても変わらないのならしょうがないと諦めることにした。それに。
それに、彼の作るご飯は、とても、とても美味しかったのだ。
高校の近くがいいと一人、家を出て小さなアパートでバイトをしながら生活する麻智は、あまりお金をかけたくないからと食事も簡単なものになりがちだった。そんな麻智にとって、男性の料理は久しぶりに食べた“手料理”だったのだ。よく知らない人が作った食事だというのに、ついつい箸を伸ばして完食してしまうほど、麻智はそれが嬉しかったのだ。
「あー、もう。仕方ないなあ。分かりました。お世話でも何でもしてください」
「ありがとうございます、ご主人様」
「それと、呼びにくいから名前をつけようと思います。何だっけ、1810、だっけ? んー、1810。810。……あやと。よし、あなたの名前は綾人にします。これからそう呼ぶんで、よろしくお願いします」
「はい。了解致しました、ご主人様」
淡々とそう返す男性、綾人に麻智は苦笑する。
(何だか変なことになったなあ。会ったばかりの人間みたいな機械と暮らすなんて……)
最初のコメントを投稿しよう!