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その日の夕食も既に軽めのものがテーブルに用意されており、着替えや手洗いとうがいを済ませた麻智が椅子に座り、いざ食べようとしたところで、朝と同様に横に立ったまま無表情で麻智を見つめる綾人に気付く。
「あのさ、綾人は一緒に食べないの?」
「私は機械です。機械は食事を必要としません」
「……じゃあ、せめて椅子に座っててよ。横から見られてるの気になるから」
「承知致しました、ご主人様」
「……」
だが麻智は自分の言ったことにすぐ後悔することになる。それは正面に座る綾人を見て瞬時に理解した。
(横から見られるのも気になるけど、正面からじっと見られてる方がずっと気になる……! 食べにくいわ!)
けれど自分から言い出した手前、そんなことを言えるはずもなく、麻智は一人気まずさを感じながら食事を続けた。そんな中でも、やはり綾人の料理は美味しかった。
それ以降もこのときと同じようなやり取りを何度も繰り返した。麻智がお風呂に入らないのかと言えば「私は機械です。機械は入浴を必要としません」と返され、寝ないのかと言えば綾人は目を開けたまま「私は機械です。機械は睡眠を必要としません」と返された。
同じやり取りを数日繰り返した頃、麻智はその問いをすることを諦めた。
そしてその頃には、麻智はすっかり綾人が家にいることが日常の一部になっていた。会話は事務的なものばかりだが、家に帰っても誰かがいるという安心、誰かと一緒に生活するという喜びを感じるようになっていた。
「おはようございます、ご主人様」
「おはよう、綾人」
朝起きたときに誰かがいるということがこんなにも幸せなことだと、綾人と出会って麻智は初めて知る。
(これでずっと見られてるってことがなければいいんだけどね)
起きたときに誰かがいるのは嬉しいのだが、自分が寝ている間ずっと横に立って見ていたのかと思うと恥ずかしさと同時に苦笑いが込み上げる。
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