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そんな生活がしばらく続いたある日、バイト先から帰る途中、麻智は小さな犬が走ってくる車に轢かれそうになるところに居合わせる。はっと息を飲むも束の間。麻智は咄嗟に走り出していた。
固まって動けない犬を軽く突き飛ばして、犬が車から離れたのを確認すると、今度は自分に接近してくる車を見る。
(あ。私、このまま……)
犬の次は麻智が動けなくなっていると、ふわりと誰かに抱きしめられる。
自分にまで伝わってくる衝撃に思わずぎゅっと目を閉じる麻智が目を開けたとき、顔を上げた先にいたのは、綾人だった。
「綾、人?」
麻智の代わりに轢かれて、麻智を抱え込んだまま道路に倒れる綾人。車はそのまま逃げてしまった。麻智は、おそるおそるその名を呼ぶ。
その声に応えるかのように徐に上半身を起こした綾人は、こんなときでも表情一つ変えることないまま麻智を見つめる。
「ご主人様、お怪我はございませんか?」
「それはこっちの台詞だよ! 綾人こそ怪我してるんじゃっ、早く治療しないと」
「私は機械です。機械は治療を必要としません」
「じゃあ言い方を変える。早く修理してもらうの!」
「ご主人様、私に修理は必要ありません」
「何でっ!?」
「私は、機械なんです。もうこの世にいてはいけない、ただの壊れた機械なんです」
「この世……?」
麻智は綾人の言っていることが何一つ理解出来なかった。修理もいらない、この世にいてはいけない、壊れた機械。何を言っているのか全く分からない。今も地面に横になりながら上半身だけどうにか起こしているような状態の綾人の姿に、麻智は焦りばかりが募る。
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