今日という日が特別であったなら

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ドラマのような甘い恋愛とか、スポーツ漫画のような熱い展開とか、そういう特別なことがあれば、僕もこの場で涙を流すことが出来たかもしれない。 そしてそれが出来ない僕は、思い出も、経験も、人間性も浅いちっぽけな生き物なのだろうなと、悲観的に見てしまう。 無難に生きて、平凡に暮らして、無気力に過ごしてきたツケがここで回ってきたんだ。 今日という日が特別と思える人はきっと、この3年間を無為にすることなく、一生懸命に日々を過ごして、精一杯生きて来たのだろう。…たとえそれが一見無意味に思えても。 だから、この場で人目もはばからずに泣ける人が羨ましく思えた。 「櫻井、今日は中学生最後の日だけど…どんな気持ちよ?」 体育館の壇上で校長先生が長ったらしい話をしている中、僕の隣のパイプ椅子に座る加藤が僕にそう話しかけてきた。 「別に普通」 僕はそっけない返事を返した。 「おいおい、櫻井よ。中学生っていう大事な3年間の集大成を『別に普通』で終わらすとはどうなんだ?」 「じゃあお前はどうなんだよ?加藤」 「俺はその…想像していたよりは普通だ」 僕の質問に、加藤は歯切れの悪い返事を返した。     
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