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「俺はてっきり、卒業式は思わず泣いちゃったりするんだろうなって思ってたけど…涙とか全然出てこないわ。卒業証書なんて紙切れ一枚渡されただけじゃ卒業の実感も湧かないし。…あーあ、可愛い女の子に桜の木の下に呼び出されて告白でもされりゃあ、少しは感動できるんだろうけどなぁ…」
そう言う加藤の言葉に、僕は少なからず共感を覚えた。
加藤と同様に、なにか特別な事が欲しいのだ。桜の木の下で女の子に告白されるとまで言わないが、なんでもいいから心に刻まれるような特別な事が…一生忘れないような格別な出来事が…。
せめて、今日くらいは普通で終わりたくない。
「この卒業式って…なにか特別なこととか無いのかな?」
「そんな特別なことなんてないだろ」
僕の期待を込めた質問に、加藤は投げやりな返事で現実を突き返してきた。
…やっぱり、普通なんだ。
今日という日は、特別なんかじゃない。
ありきたりな普通の日々なんだ…。
僕がそう諦めかけたその時、加藤が口を開いた。
「あ、でも…強いて言えば一つだけこの卒業式には特別な事があるぞ?」
「特別な事?それはなんだよ?」
「それはな、この卒業式には…『在校生からのエールが無い』ってことだ」
「そんなの、普通のことだろ…なにをいまさら…」
加藤の当たり前の発言に、僕はため息まじりに返事を返した。
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