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初めはその足も軽快なものであった、女子グループまでの距離が5合目、6合目辺りまでは特に苦もなく進むことができた。
しかし、加藤の足が7合目に差し掛かってきた頃、雲行きが怪しくなってきた。
目標としていた頂きを先に別の男グループに登頂され、グループの交渉が始まったのだ。
こんな急激な雲行きの変化にさすがの加藤もたじろぎ、下山を余儀なくされた。
天候が変わり易い山において、あえて撤退を選ぶことができるのは一流のクライマーの証、勇気の下山に踏み切った加藤もまたプロクライマーなのだ。
「その顔なら撤退は英断だな、加藤」
無事に生還した友を僕は持ち合わせている最大限の言葉で労った。
「まさかあそこで爆男低気圧に遭遇するとは…」
「…なんだよ?爆男低気圧って」
「爆発してほしい男のことだ。それはさておき櫻井、やっぱりおまえも来てくれ、一人じゃ無理だ」
「話し下手な俺なんかついて行っても烏合の集には変わらないだろ」
「いや、それでもエベレスト無酸素単身登頂から酸素あり登頂くらいには楽になる」
そういうわけで今度は二人で険しい山道を登ることにした。
遥かなる頂きを目指し、待ち構える精神的急勾配に幾度となく心折れそうになりつつも、心情的に這いつくばりつつ、山頂付近までたどり着いた。
ついにここまでたどり着いた。
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