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生きていればいつかはもっといいコンディションでの登頂に挑める時が来る。だからいまは引こう。
僕がそう考えたその時、頂きにむけて加藤がさらなる一歩を歩み始めた。
僕は友の蛮勇を止めようと手を伸ばすが、加藤はその手を振り払い、僕にその大きな背中で語りかけて来た。
『共に行こう、ユートピアへ』
断崖絶壁、深海のように息がつまるほどの低酸素、僕達を拒むかのような精神的ブリザード。無謀としか思えない難関にその身一つで果敢に挑まんとするその男の姿に、僕は感動すら覚えた。
勇気と言う名のピッケルで断崖絶壁に張り付き、そしてとうとう手を伸ばせばその頂きに触れられるほど近くにたどり着いた彼は腹のそこに秘めた最後の力を振り絞り、緊張でカラッカラになった喉を震わし、その頂きに手をかけた。
「あの!…メンバー、決まった?」
この男…とうとう登り切りよった!!。
僕は少し後ろから彼の偉業をその目でしかと焼き付けていた。
「えっと…君たちは確か、ベースの加藤くんとギターの櫻井くんだったよね?」
「そうだよ」
加藤が我先に道を作ってくれたおかげで僕は難なくその頂きに交わることが出来た。
その頂きから見える光景は今までのものとは格別で登頂という達成感に僕達の高揚は鳴り止まなかった。
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