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美容師さんにガシガシ梳いてもらってストレートパーマをかけてボリュームを抑え、生活指導の先生に怒られない程度に適度に微妙に染めたダークブラウンの髪を春風に揺らせながら、目一杯の度のコンタクトレンズを入れてもそんなに遠くは見えない目で後ろから飛びついて来たクラスメイトの顔を見る。今日もすごくかわいい。
「おはよう唯」
わたしも快活にあいさつをかえす。唯は高校に入って以来の一番の友達で、わたしが思い描く理想の女の子の要素を全部詰め込んだみたいな最高の女の子で最高にかわいい。
「昨日のドラマ見た?」
「見たけど、あれはないわ」
「だよね。面白くないを通り越して痛々しくて一周回って面白くなってきたもん」
「それは分かる」
女子高生らしい、科学にも政治にも社会にも一切関係がない、頭のおかしい天才だったら絶対にしないようなどうでもいいような話をしながら並んで歩く。
そう、及川美月は見事に高校デビューを果たしたのである。
中学での成績は良かったから当然のように志望校は県内で一番の進学校にしたし、まずまず順当に合格したし、そして県内で一番の進学校に進んだわたしの学業の成績は特に見るべきところのない上の下ぐらいのポジションに収まった。入学前の春休み期間中に美容室と眼科に行って主たる装備を整え、スカートを腰のところでクルクル巻いて短くするテクニックとオーバーサイズのラルフローレンのベストを手に入れたわたしを「頭のおかしい天才」扱いする人はもう誰も居なかった。唯と同じクラスになって、すごくかわいいなー、ああいう子と友達になれたらいいなー、と思っていたらいつの間にか友達になっていた。誰もわたしと唯が友達同士であることに疑問を抱かないようだった。
唯はわたしの隣に居そうな女の子で、わたしも唯の隣に居そうな女の子になれていた。イワシだって缶詰にしてピーチってラベルを貼ってしまえばピーチの棚に並べられるし、誰かに買われて缶を切られるまではピーチだと思われているだろう。つまり、そういうこと。
わたしは炎天下のエアゾールです。
休日になるとわたしは三つ編み眼鏡に、もっさいマキシ丈のスカートと日よけの大きな帽子で地図とカメラを持って、廃屋を求めて町を歩く。
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