第1章

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 やっぱり多少の無理があるということなのだろう。見た目を整えて晴れて普通の女子高生になれたわたしは、それでもやっぱり心身ともに完全に普通の女子高生になれたわけではないらしく、心のどこかに常に嘘をついているような後ろめたさがあって、それがストレスになって内圧が高まって爆発しそうになってしまう。それで、休みの日には本来の自分に戻って自分だけの趣味の世界に潜ることでガス抜きをしている、ということなのだと思う。でも、その本来の自分だってそもそも嘘だ。  廃屋の写真を撮り始めたのは、わたしの頭のおかしい天才っぽい見た目のせいで生まれた、周囲の及川美月は頭のおかしい天才っていう認識に合わせて作っただけの、頭のおかしい天才っぽい趣味なだけだったはずだ。それでも、やはり鋳型の中に長時間閉じ込められていれば形もそのように変容するっていうことだろうか。  本当のわたしなんてどこにもない。  廃屋探しも何年もやっていると地図を見るだけでだいたいの目星がつくようになってくる。見つけた廃屋を地図に赤ペンで書き込んでいくと、ある程度の傾向みたいなものが見えてくる。流れが滞っているところ、淀んでいるところに廃屋は発生しやすい。廃屋は均一に分布するわけではなく、明らかに地域的な偏りがある。廃屋が決して発生しない地域というのもあるのだ。そういうところは探しても無駄だからスルーして、見込みのありそうなところを歩いて回る。最初は自宅の周辺から始めた廃屋探しも、攻略済みの地域が増えるごとに必然的に遠出していくことになる。電車とバスを乗り継いで、行ったこともない町を歩く。
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