シン・デレラ

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「決勝戦。開始」 何やら会話が始まる前に試合開始の声がかかる。 風切り音とともにトトの槍がシンを襲う。突きではなく上段からの振り下ろし。だが辛うじて躱す。 すかさず槍による突きが入りシンの鎧の一部が抉れる。 ダンと地面を踏みしめ、シンは一足飛びにトトの懐に飛び込む。 鈍い音とともにシンの右膝がトトの腹にヒット。 「ちっ」 派手に後ろに跳んだのはトトがシンの膝の威力を殺したせいだとシンは理解する。 両手突き剣を水平に構え刺突。 しかし後ろにステップで躱される。 更に刺突。今度は二連。 そこから一進一退の攻防が始まる。 観客席の喧騒が次第に静かになっていった。 「やはり凄い。どの剣術の流派なのか色も見せない」 トトの言葉にシンは苦笑いをする。 戦場にあって自ら修めた武術の流派を見破られることは死を意味する。 デレラ侯爵家の家訓のひとつである。 そのためシンも物心がついた頃から色々な武術の流派を学び自分に合った型を習得している。 普通なら中途半端になるが、十全に熟せるのはデレラ侯爵家が密かに伝承させるスキル武技好みのおかげだ。 無論、デレラ家が宗家であるデレラ流という剣術が存在しており、シンも師範代の地位だったりするのだが。 「そろそろ勝って、君の名を教えて貰おうかな?これ以上時間をかけると明日の舞踏会にも影響がでそうだし」 その言葉でシンの頭に『その姿は今日の午前0時。城の時計が十二時を指すまで解けない魔法じゃ』の言葉が蘇る。 瞬間シンの意識が会場から見える時計塔に移る。十一時五十九分。 「くっ。わたしは、わたしはまだ戦いたいのに時間が」 「それはどういうことだキャットレディ」 トトの放った渾身の一撃をシンは仰け反りながら躱す。トトの槍がシンのマスクとネコミミカチューシャを掠めて逸れていく。 ぼーん。ぼーん。夜中には鳴らないはずの時計塔の鐘が鳴り響く。ほぼ全員の意識が時計塔に向いた。 ボン 次の瞬間シンの周りに大量の煙が立ち込める。 煙が立ち消えたあと、カラランという音とともにキャットレディのマスクとネコミミカチューシャが床に転がり落ちた。 「衛兵。レディキャット殿が攫われた。王都全土に緊急配備。賊を逃がすな」 キャットレディのマスクとネコミミカチューシャを拾い上げながらトトは叫んだ。
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