1人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
「シン。鍛錬は終わりましたか?」
「はい。お継母さま。鍛錬は恙なく終了しました」
こげ茶色のショートボブに灰色の瞳の派手なドレスの女性アリス・デレラ侯爵夫人の問いににシンは静かに答える。
「あと1か月、貴女の誕生日が早ければ来月の舞踏会に参加できたのに残念です」
アリスは口では残念そうに言うが顔は笑って、いや嗤っていた。
その後ろに控えているアリスによく似た二人の娘もまた嗤っている。
シンは静かに頭を下げる。
「お母さま。シンは女性とはいえデレラ侯爵家の直系長子。舞より武の人間。舞踏会なんてとてもとても」
「シュチャ姉さまの言う通りですわ」
「シュチャ、パンプティ言葉を慎みなさい」
アリスの一喝に二人は顔色を変えシンに謝罪する。
シンは気にしていないと手を軽く上げる。
実際のところシンは1年に一度、貴族の子弟が成人の儀式という名の社交界デビューを兼ねた舞踏会には興味が無い。
今年の舞踏会がサファイア王子の社交界デビューだと知っても心は動かなかった。
二人の義姉はあわよくば王子のハートをゲットすることにあるようだが・・・
むしろシンは王子の社交界デビューを祝って行われる王子直衛の近衛四聖騎士のお披露目武闘会の方に興味があった。
王子のご学友として共に士官学校で学び、実力で選ばれる近衛四聖騎士。
中には下級騎士だったり平民出身の人間もいる。
そういった人間にとって宮廷での箔付けに次期デレラ侯爵は美味しく見えるだろう。
冗談じゃない。自分の旦那は少なくとも自分を打ち負かす腕前の人間であって欲しい。
美醜は問題ではない。
「武闘会か・・・」
シンの呟きにアリスの眦が上がったが、シンはそれに気づかなかった。
最初のコメントを投稿しよう!