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 答えるべきだろうか、と僕は考える。無差別に人を捕まえては野菜を押し付けるから、悪ガキどもの標的になるんですよと。残酷な妄想はまたしても二秒で終わった。たとえ僕も迷惑に思っていた一人だったとしたって、進んで人を傷つけようとは思わない。 「あの……ジャガイモって、根っこだろ。だから、誰かが花を取ったのかも」  皺の深く刻まれた顔から、ほんの僅かだけ淀みが抜けた。くらげさんは僕を見ている。言葉の意味が分からず、それを知ろうと注視している。この先にあるかどうかわからない救いを、きっと、待っている。  僕は唇をなめた。 「ほら、根っこを食べる野菜だから、根っこに栄養がいかなきゃいけないだろ。美味くするためにさ。だから、必要ない花を全部取って、根っこにエネルギーを全集中できるようにしたとか」  我ながら名答だと思った。本当にジャガイモの花を摘み取ることが必要なのかは分からないが、説得力はある。 「ははあ、なるほどねえ」  ゆっくりと頷くくらげさんは、もういつものくらげさんだった。ぱあっと満面の笑みを浮かべたわけではない。しかし、どことなく漂っていたあの柔和さ、温かさが、彼女の表情に戻ってきた。 「きっと、親切な人がいたんだねえ」 「う、うん」 「でもねえ。あたしゃ、花が好きなんよ」 「ジャガイモの?」  思わず訊き返した。ジャガイモの花なんて、こんなことでもなければ知ることすらなかっただろう。そんな地味な花を、わざわざ泥水の中から掬い上げるほど好きだとは。 「役に立たんでもいいんや。それでも咲いてくれるんだから」
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